マータイさんとの対談(2006年2月21日)
ワンガリ・マータイさんとの対談(2006年2月21日)
真珠:お目にかかれて光栄です。
マータイさんの笑顔は、みんなを幸せにするすてきな笑顔だと思います。
マータイ:どうもありがとう。
真珠:絵本『もったいないばあさん』を読んでくださりありがとうございました。4歳の息子に「『もったいない』ってどういう意味?」と聞かれてうまく答えられなかったことが、この絵本を作ったきっかけです。その時、もったいないは感謝の気持ちがこめられた言葉なので、一言では説明しきれないことに気づきました。子どもは、心で思うようにイメージとして理解するものだと思うので、絵本を通して「もったいない」を伝えたいと思い、この絵本をつくりました。
マータイ:あなたの絵本はすばらしいですね。おばあさんは「もったいない」の精神を忍耐強くしっかりと子どもたちに伝えていると思います。いつも登場する男の子の絵もかわいらしく、話の内容もよく絵本にあっていてとても気に入っています。絵本はもったいないを広めるために、とてもよいコンセプトですね。
真珠:ありがとうございます。日本には「おばあちゃんの知恵袋」という言葉があり、もったいないばあさんは知恵を伝えないのが一番もったいないと思っています。身近な暮らしの中の工夫で、子どもたちに楽しい知恵をおしえてくれるのですが、ケニアにも「おばあちゃんの知恵袋」のようなものはありますか?
マータイ:どの国や地域に行ってもそれぞれのもったいないがあり、ものを大切にする文化があります。それこそ、私がもっともすばらしい、大切にすべきだと考えているものです。私は、人々にビニール袋を一度使っただけで捨てるのはやめて、再利用しましょうと呼びかけてきました。ビニール袋に代わるものとして、ケニアでは伝統的なかご、キョンドとよばれるバスケットがあります。
真珠:私、昨年の愛知万博に行った際、ケニアのブースで伝統工芸品のかごを買いました。
マータイ:そう、それがキョンドです。キョンドは自然の素材で作られていて、使い捨てではなく、何度でも使うことができるものです。すべての文化には、それぞれのもったいないがあり、それゆえに、私は「もったいない」は世界の人々にも理解され、祝福されると考えているのです。
それにしても、この絵本は、本当にすてきですね。英語の訳をつけてくれてうれしいです。まあ、これは、新しい絵本?(『もったいないばあさんが くるよ!』をさして)これもすばらしいですね。
真珠:その本は、昨年、朝日小学生新聞で連載されたものをまとめたものです。こちらは、現在、毎日新聞で連載されているコラム「もったいないばあさん日記」です。ご家族で読んでいただけるように書いています。
(『もったいないばあさんが くるよ!』の江戸時代のページをさして)日本には、100%リサイクルを実現していた江戸という時代がありました。このページでは、もったいないばあさんが江戸時代に行って、レポートしているのですが……。
マータイ:あら、この人は何をしているの? (たがやをさして)太鼓をたたいているのですか?
真珠:いえ、木のバケツを修理しています。江戸時代では、髪の毛もかつらを作るために再利用されていましたし、ろうそくのしずくさえ集めて使っていたそうです。もったいないばあさんが、ケニアやアメリカや世界の他の国々に行って、もったいないことをレポートする、というのもおもしろいのではと考えています。
マータイ:それはすばらしい考えですね。ケニアでのもったいないストーリー、ぜひチャレンジするべきだと思います。もったいないのコンセプトを世界に広げるためのひとつの手段として、とてもいい方法だと思います。どこに行っても、どの文化にも、資源を大切にし、自然の恵みに感謝している、それぞれの知恵、それぞれの伝統を見つけることができるでしょう。私の国ケニアでは、穀物が出来すぎると人々に悪いことがおきると考えられ、収穫の一部を燃料にかえし、与えられたものに対してリスペクトするという祭りごとをしています。あたながケニアに来た時に、それについて書きたいと思うかもしれませんね。きっとたくさんの文化を見つけることができるでしょう。だからこそ、「もったいない」は本当にユニバーサルな言葉なのです。
あなたが、「もったいない」を絵本の中で表現していることはとてもすばらしいと思います。立派なお仕事をされたこと、おめでとうございます。私もこの絵本がたくさんの言語に翻訳されて、世界の国々に広がっていくことを願っています。
真珠:ありがとうございます。私はいつも、「もったいない」には愛があると思っています。ベースに愛があるのが「もったいない」だと。愛をベースに命の大切さを伝える言葉「もったいない」を作品の中で伝え、マータイさんのキャンペーンをこれからも応援してまいります。
マータイ:どうもありがとう。私がなぜ平和の大使として、「もったいない」という考え方を広げる活動をしているのか、その理由のひとつは、平和は、私たちが、限られた資源をどうやって平等に分配し、仲良く暮らしていけるかにかかっていると思うからです。もしも、限られた資源が平等に分配されなければ、人々は、他の人々を排除しようとして戦いになるでしょうし、人々が資源を浪費して感謝しなければ、遅かれ早かれ結局戦争が起きることになります。人々は過去にも戦ってきましたし、これからも戦い続けていくでしょう。国の境がなくなってきているために、遠く離れた隣人とも、もっと簡単に争うようになりました。皆で平和に暮らしていくために、私たちが同じ星に住むファミリーとして、どのように政府を持ち、どのように資源を分配するか、対立を抑えるためには何をすればいいのか、もう一度考えなおす必要があります。このことは、平和を脅かしている最も重大な懸念である、環境に対する人々の注意を促すために、2004年に国連でも確認されました。「もったいない」は、そのメッセージを伝える言葉だと思います。尊敬と感謝の気持ちをもって資源を使いましょう、無駄に使うことをやめましょう、再利用し、リサイクルしましょう。そして、争いをやめ、対立を抑えるために努力をしましょう……。私は、世界の人々がこのメッセージを受け取ってくれることを願っています。
真珠:同じ時代にマータイさんと同じく、もったいないの精神を伝える活動をするものとしてお目にかかれたことを大変光栄に思います。今日は本当にありがとうございました。
マータイ:こちらこそ、あなたに会えてよかったです。すばらしい絵本をありがとう。